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ボウラーズ・プロファイル #1
HUMANFebruary 11, 2024

PBAプレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得に向かって

ボウラーズ・プロファイル #1:井口 遼太

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ボウラー達のボウリングキャリアやライフスタイルをインタビュー形式で紹介する「ボウラーズ・プロファイル」

第1回は、2022年のルーキーイヤーで2勝を挙げ、米国のPBA*にも挑戦するプロボウラー・井口 遼太を特集します。
*PBA(全米プロボウリング協会)

――ボウリングを始めたきっかけを教えてください
井口ボウリングを始めたのは、中学2年生の秋頃です。小学生から続けていたサッカーをやめて運動する機会がなくなっていた頃に、父(JPBA男子41期・井口直之)から「夏休みボウリング教室に来て投げてみたらどうか」と誘われました。両親ともプロボウラーであったこともあり(母はJPBA女子37期・井口久美子)、小学生の頃からマイボール・マイシューズは持っていましたが、ボウリングをするのは年に1、2回程度でした。中学2年生の9月頃になると、笹塚ボウルにジュニアボウリングクラブができて、このクラブに入ったことで競技としてボウリングを始めることになりました。

初めて出場した大会は、中学2年生の時のオール関東ジュニアボウリングトーナメントです。その大会の結果はボロボロでしたが、その後JBC(全日本ボウリング協会)に入って大会に頻繁に出場するようになりました。

中学3年生の時には、初めて全日本中学ボウリング選手権大会(以下、「全中」)に出場する事ができました。全中の大会期間中には、出場する選手全員で同じ合宿所に宿泊するのですが、その合宿所で前年度の優勝者であった鮫島蓮(現・JPBA男子59期プロボウラー)くんと仲良くなったことで、より一層競技としてのボウリングを楽しめるようになりました。当時、蓮くんは僕から見ると神様のような存在で、彼と話ができた事がとても嬉しかったです。

――アマチュア時代のボウリングキャリアの中で特に印象に残っていることはありますか
井口高校2年生の時に全日本ユースナショナルチームメンバー*に選出されたことは、僕の中で大きなターニングポイントになりました。テレビ見ていたような人たちと一緒にボウリングをする機会を得て、自分の中にあったボウリングの基準値が大きく上がりました。全中の時に鮫島蓮くんと出会ったことと共通しますが、実力ある選手達とボウリングをする事が、僕のボウリングキャリアにおけるターニングポイントとなっていると思います。
*全日本ユースナショナルチームメンバー:18歳未満の選手を対象とした世代別日本代表


限界を決めずに理想のボウリングスタイルを追求する日々

――普段の練習について、内容や頻度を教えてください
井口普段は週に5〜6回、3時間程度の練習をしています。笹塚ボウルでは、夕方から夜にかけてジュニアクラブの練習があるので、クラブのメンバーたちに指導もしながら一緒に練習しています。クラブの練習は2時間なので、終わってからは個人練習をします。練習内容は、次の大会のコンディションを中心に様々なオイルパターンを引いた練習やフォームチェック、苦手なピンのスペア練習など、日ごとにテーマを決めて取り組んでいます。

オイルパターンを引いて行う練習では、そのオイルパターンのスコアペースを知ることを意識しています。上位に行くためにアベレージで250点が必要なのか、または200点でいいパターンなのか、投げながら見極めていきます。そして、そのオイルパターンに対してやってはいけない攻め方は何か探るようにしています。使うボールやライン取り等、オイルパターンに対してスコアが出しやすい攻め方、出しにくい攻め方があるので、その中で高スコアを出せる可能性が高い選択肢を残し、他を削っていくイメージです。僕のプレースタイル的にも、スコアを打てるときにはあまり難しく考えなくても打てると思っているので、打てるタイミングが来るまで、どう辛抱していくかを考えています。

フォームチェックをする時は、スマートフォンで動画を撮りながら練習します。フォームの変えたいところに対して、どう意識すればいいか仮説を立てて取り組んでいます。考えた仮説が失敗になることも多いのですが、たまにカチッとはまる時があるので、その時が来るまで繰り返し考えながら練習します。勢いがあるボールを投げれることが僕の強みである一方、コントロールを課題に感じているので、コントロール精度を上げられるフォームを模索しています。

練習で新しい事に取り組む時に「自分にはできる」と信じる事が大切だと思っています。「スピードはこれ以上上げられない」「回転数はもう上げられない」など考えず、自分で限界を決めずに取り組むことで、理想の姿を実現できると思います。

――トーナメントに向けてどう準備していきますか
井口体に疲労が残った状態で、トーナメントに行かないように意識しています。怪我があったり、疲労が残った状態では、ベストのパフォーマンスを出すことは難しいため、トーナメントに臨む前提として、この点は意識しています。そのためには、トーナメント前の練習で無理をしないことも大切だと思っています。特に試合前は、がむしゃらに練習量を増やしたくなる気持ちも出てくるのですが、自分がここまでの練習をすると決めたラインまで練習をしたら体を休める時間も作ります。
また、自信を持ってトーナメントに臨めるようにする事も大切にしています。練習の中で、「このコンディションなら打てる」という状態にまで持っていけることが理想です。もちろん、結果的に打てないこともありますが、準備段階で「このコンディションは厳しそう」という状態のまま、トーナメントに向かわないようにしています。オイルパターンを引いた練習の中で、「このレーン状態になれば打てる」という時間帯を作る事が大切です。そうすれば、トーナメント中に厳しい時間帯が来ても乗り越えることができます。


一球に気持ちを乗せ、自分の投球に集中する

――トーナメント中に大切にしていることは
井口まずは、1球に気持ちを乗せることです。少し不思議に聞こえるかもしれませんが、一球に気持ちを乗せるのは、ボールが手から離れた後です。ボールが手から離れる前は正確な投球をする事が大切で、この段階で気持ちを乗せると投球の邪魔になってしまいますが、手から離れた後にボールに気持ちを乗せると、同じストライクでもただ投げている時と比べて、喜びが違います。この「喜ぶこと」がトーナメント中にはとても大切で、自分の中で「回復薬」のような役割をする感覚があり、落ち着いてゲームを展開することにも繋がります。トーナメントは長丁場で、難しい展開の時でも気持ちが切れない事が大事なので、この点は大切にしています。
また、自分の投球のみに集中することも大切です。対戦相手や周りの選手が打っているか、打っていないかは関係なく、自分がいいスコアを出せばいい結果に繋がります。トーナメント中の情報収集として周りを見ることはいいですが、それを気持ちに影響させるようなことがあってはいけません。自分がいいと感じた戦略を実行するために、自分の事だけに集中します。実際に徹底するのは難しいことでもありますが、だからこそ大切にしていることです。

――プライベートの時間では、何をして過ごしていますか
井口読書をしていることが多いです。ビジネス書、小説、心理学に関する本などを、移動時間や寝る前に読んでいます。年間だと100冊くらい読みます。特に好きなのは『影響力の武器』で、皆さんに読んで欲しいと思える心理学系の本です。本の中で紹介されている「一貫性の法則」という考え方は、自分の中でも気づきがあり、ボウリングをする時も取り入れています。簡単に言うと「自分で決めたことは守りたくなる」ということです。ボウリングにおいても、目標や自分がどうありたいかを公言することで、実際に達成しようと日々取り組むようになります。また、自分が得意なことを口に出して言うことも、この法則によれば大切といえます。例えば、「自分は球威が強いボールを投げられる」と言い続けることで、最初は言葉が先行していたとしても、実現できるように取り組むようになり、次第にその言葉が現実化していくと思います。

あとは話すことが好きで、ボウリングの仲間とカフェや銭湯などに行ってゆっくり話す時間がリフレッシュにもなっています。ボウリング仲間以外にも、ヘアメイクさんや舞台俳優の仕事をしている方とごはんに行ったりする機会もあります。どの分野でも、その道を突き詰めている人には刺激を受けますね。

――プロボウラーになってからの競技生活で一番の思い出は
井口プロ1年目でアメリカ・PBAツアーのトーナメントに出場したことが、刺激的な経験になりました。父から「PBAに挑戦してきなよ」と言ってもらったことが、1年目から挑戦することを決めたきっかけです。JPBAのプロデビュー直後に、シーズントライアルと新人戦で優勝できたことで、MOTIV社と契約させていただけることとなり、PBA挑戦の大きな後押しになりました。プロになる前からアメリカで活躍したいという想いがありました。
PBAツアーのワールドシリーズ・オブ・ボウリング*という、オイルパターンの異なる4つのトーナメントに出場しました。世界のトッププレイヤーとの差を実感した反面、通用する部分も学ぶ機会になりました。
*ワールドシリーズ・オブ・ボウリング(WSOB):PBAトーナメントの一つ。2023年はメジャータイトル・ワールドチャンピオンシップを含めた4つのトーナメントで構成された
――プロデビュー後すぐにシーズントライアルと新人戦で優勝されたのも印象的でした
井口試合に臨む前に、優勝できるとは正直思っていなかったです。あの2試合は、たまたま自分に合ったコンディションだったと思っていますが、その機会を優勝に繋げられたのは大きかったです。優勝を争える機会が毎回来るわけではないので、来たチャンスを逃さずに掴めたことはいいことだったと思います。

――プロボウラーとしての苦労はありますか
井口下を向かずに常に一生懸命でいることです。成績が出せなかったトーナメントの後は特に落ち込む事もあるのですが、「落ち込む」というのは自分に期待していたから出てくる感情だと思います。そんな時、自分はまだまだと今の実力を受け入れて、立ち直るまでの時間には苦しさが伴います。「自分はボウリングに向いていないのではないか」といったことが頭をよぎる瞬間もありますが、「これまで積み重ねてきたからできるようになった事もある」と言い聞かせて、前を向くようにしています。

――ボウリング業界がより活性化するために、どんなことが実現されるといいと思いますか
井口一つは、世界一のプレイヤーが出ることだと思います。世界一のプレイヤーがいる競技が国内で盛り上がることは、ほぼ間違いないと思います。ボウリングと関わる機会をどれだけ多く作れるかということも重要です。それは必ずしもボウリング場に来てプレーすることだけではなく、ミニボウリングやゲームでも構わないと思います。ミニボウリングをプレーした人の中から、何割かの人だけでも「次はボウリング場に行ってみよう」となれば、ボウリング場への来訪者は増えます。例えば、公園にミニボウリングのような遊具を置いてもらうことも一つのアイデアではないでしょうか。
また、僕の所属している笹塚ボウルでは、笹塚中学校に新設されたボウリング部が活動しています。ボウリング部に入って継続的にプレーしてくれれば一番ですし、そうでなくても「私の中学校にはボウリング部があったな」と将来思ってくれるだけでも、十分に競技との接点を作れていると思います。

――スポンサー企業やボウリング場、行政機関等の関連する事業体と今後どのような取り組みをしていけるといいと思いますか
井口ボウリングに触れてもらえる機会を増やすという観点から、「毎月1日は1ゲーム無料」といったような宣伝施策を打つことは、ボウリング場に所属する者として一つのアイデアと考えられます。また、学校や企業を対象に、ボウリング大会のプランをボウリング場から提示することもいい取り組みになるかもしれません。現状団体の予約は、お客様側からボウリング場に個別に相談いただく形式になっていることが多いですが、ボウリング場から提案できるようにすれば、足を運ぶきっかけを作りやすくなると思います。


目標はPBAツアーでプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを獲得すること

――今後のプロボウラー生活における抱負を教えてください
井口最終目標は、PBAのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーを獲得することです。その大きな目標に向かって、2024シーズンはPBAツアーで賞金を獲得して帰ってくることが目標です。JPBAにおいては、公式戦の優勝と来シーズンのシード権獲得を目標にしています。上手い選手ではなく、いい形で目立てる選手になっていきたいです。

PROFILE

井口遼太

Professional Bowler井口 遼太Ryota Iguchi

JPBA男子60期生・ライセンスNo.1433

JPBAプロフィール

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Text,Edit:Ariyoshi Ono
Photography:MICHELMITO

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